かつて、串山孝一というフライ級のプロボクサーがいました。
この当時のプロボクシングの最軽量級はフライ級で、日本人にとっては一番選手層の厚い階級です。
そしてこの串山孝一、身長は161センチと小柄ながらリーチは180センチという、一見しても恐ろしく長い腕を持っていました。
では山岸は強かったのかというと、実はそうでもありません。
確かに四回戦を無傷で勝ち上がってはきましたが、六回戦ボクサーになった途端に連敗を喫するようになり、2勝5敗でやっと八回戦に進出してからも(六回戦の試合を2度勝つと八回戦に行ける)、一度ついた負け癖を払拭できずに負け越しボクサーとなってしまいました。
機動力はあり、得意なパンチも持っている選手なのですが、いかんせん打たれ弱い。
そしてリーチの極端に長いボクサーの例に漏れず、接近戦を苦手としていました。
ところがそんな彼は、ボクシングファンではない人たちの間で根強い人気を誇っていました。
山岸の試合では毎度のように、二階席の「串山孝一応援クラブ」という垂れ巻が存在感を発揮していました。
なぜ、彼にここまで人気があったのでしょうか。
ボクサーとは思えない甘いマスクも、確かに人気集めに一役買っていました。
しかし、本当はそのような理由で人気者になったわけではありません。
一番の理由は、彼の本業です。
山岸はプロボクサーになる前に神学校を卒業した、現役の神父でもあったのです。